立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『スモールワールズ』 一穂ミチ

内容(amazonより引用)

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。

 

 

感想(ネタバレなし)

いや、すごいな......。
これ程まで質の高い短編集は中々お目にかかれない。

どの話も等身大の人間が抱える心の機微が克明に描かれていて、「ネオンテトラ」は不妊とそれによって注がれる周りの目に苦しめられる女性モデルという、全くと言っていい程縁遠い主人公に感情移入できてしまうのがまず凄い。
居場所のない少年との静かな交流が心地良く、その分だけラストで呆然としてしまった。
こう来るか。

切れ味で言うと「ピクニック」が至高。
イヤミス的進行で、凄惨なエピソードが淡々と語られるのだが、毒と意外性を極限まで高めたオチはミステリ作家を凌ぐほどの逸品。
凪良ゆうもだけど、それまで全く別の界隈で活躍していた作家が、何故ここまで伏線や意外な真相のようなミステリ的技巧に優れているのだろうか?
不思議だ。

毒のある話だけでなく、「魔王の帰還」と「花うた」はユーモア成分が強くて笑えたし、「式日」の素朴な空気感も好み。

そして、どの話の終わりも手を止めたくなるような余韻がある。
言葉にならないこの感情こそが、「スモールワールズ」が持つ最大の素晴らしさの表れだろう。

 

評価:9点

2023/11/7 読了