内容(amazonより引用)
1977年、エストニアに生まれたラウリ・クースク。
コンピュータ・プログラミングの稀有な才能があった彼は、ソ連のサイバネティクス研究所で活躍することを目指す。だがソ連は崩壊し……。
歴史に翻弄された一人の人物を描き出す、かけがえのない物語。
感想(ネタバレなし)
ソ連崩壊の前から現代に至るまでの時代の流れと、プログラミングに魅入られた一人の半生を丹念に描いた一冊。
プログラミングと聞くと、無機質で人の気持ちが反映しづらく、近寄りがたい印象を受けるかもしれない。
しかし、本作の主人公であるラウリがプログラム上に見出す世界は、詩的で美しいのだ。
静かに画面と向き合い、プログラムを組む。
その澄んだ心象風景に、森博嗣の『喜嶋先生の静かな世界』を思い出した。
志を共にする仲間と出会ってから、彼の世界は一層輝きを増す。
永遠に留めておきたくなる綺麗な瞬間は、しかしながら儚く短い。
心から通じ合っていたはずなのに、ソ連崩壊の動乱により、各々のバックグラウンドの違いが浮き彫りとなり、散り散りになってしまう展開は胸が痛かった。
だが、その後も時は流れ、現在に追いつき、そしてラウリ・クースクは見つかる。
歴史に名は残らずとも、彼の人生はかけがえのないものであり、データとして残すべきだ。
そう、読者にも思わせる豊かな物語が確かに、そこにあった。
とても良い小説を読んだと思う。
評価:8点
2024/9/22 読了