内容(amazonより引用)
母の死後、母の初恋の人、佐山に引きとられた雪子は佐山を秘かに慕いながら若杉のもとへ嫁いでゆく――。雪子の実らない恋を潔く描く『母の初恋』。
さいころを振る浅草の踊り子の姿を下町の抒情に托して写した『夜のさいころ』。
他に『女の夢』『燕の童女』『ほくろの手紙』『夫唱婦和』など、著者が人生に対し限りない愛情をもって筆をとった名編9編を収録する。
感想(ネタバレなし)
著者の作家人生の後期に上梓された作品だからか、『雪国』に見られるような自然の美を切り取る描写はやや少ない。
代わりに、人の親となった人物が多く、諦めに似通う優しさが随所に見られた。
「母の初恋」は、初恋の相手が遺した娘を、嫁ぎ先に送り出すシーンから始まる一篇。
愛し合っていたにも関わらず別れてしまった二人の数奇な運命が、子である雪子にも重なり、切ない。
終わりの五行が鮮烈で、文豪の凄味を感じずにはいられなかった。
「ほくろの手紙」も好きだ。
首筋にある黒子をいじってしまう変な癖を持つ妻と、それを咎める夫。
構図だけだとコメディチックなのだが、それが夫婦の愛憎を巧みに写し取っているから恐れ入る。
「燕の童女」は珍しく(?)徹頭徹尾平和な一篇。
新婚夫婦の寄る辺なくぎこちない空気が、たまたま同じ舟に乗り合わせた少女のくもりないあどけなさに、ゆるんでいく。
その変化が心地いい。
川端の作品は、冷たい観察が基底にあるが、時たまあたたかくて、そこに魅かれる。
評価:なし(文学作品のため)
2024/9/25