立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『なめらかな世界とその敵』 伴名練

内容(amazonより引用)

いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作のほか、脳科学を題材として伊藤計劃『ハーモニー』にトリビュートを捧げる「美亜羽へ贈る拳銃」、ソ連アメリカの超高度人工知能がせめぎあう改変歴史ドラマ「シンギュラリティ・ソヴィエト」、未曾有の災害に巻き込まれた新幹線の乗客たちをめぐる書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」など、卓抜した筆致と想像力で綴られる全6篇。SFへの限りない憧憬が生んだ奇跡の才能、初の傑作集が満を持して登場。

 

 

感想(ネタバレなし)

長らく気になっていて漸く手を伸ばしたが、これが正解。
非常に面白いSF短編集だった。

どの話もSFらしい奇想が軸にあり、表題作は平行世界という手垢の付きまくった題材を扱いつつも、その描き方が独特。
話の展開にも、タイトル回収にも目を見張るものがあり、純粋に小説として楽しめた。

ミステリ好きとしては「美亜羽へ贈る拳銃」がツボ。
”人格を上書きできる銃”をガジェットとし、二転三転していく話に見事手玉に取られた。
種明かしに至り、登場人物の別の側面が見えてくるのもミステリ的な味わい深さがあって、愛せる。
SFとミステリの理想的な融和と言っても過言ではないのでは。

あと、全編に亘っての傾向なのだが、心理描写が良い。
SFというジャンルでは人間の感情表現は重要視されないという偏見を勝手に持っていたので、本作の、SF世界を感情豊かに色づける在り方は新鮮だった。
特に「ひかりより速く、ゆるやかに」は青春小説として読み応えがあり、解説の斜線堂氏の言葉を借りれば、エモい。

SFに苦手意識を持つ人にこそお勧めしたい。

 

評価:8点

2023/11/14 読了