立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『ケチる貴方』 石田夏穂

内容(amazonより引用)

冷え性」と「脂肪吸引」。いま文学界が最も注目する才能が放つ身体性に根差した問題作!

 

 

感想(ネタバレなし)

作者のことも一切知らず、何の気なしに読んでみたが、とても面白かった。

とにもかくにも文章が優れている。
収録された両作共に、主人公が生まれ持っての身体的な異常を抱えていて、表題作の語り手は極度の冷え性
体感温度の違いにより生じる困難が、冷めた文体でユーモラスに描かれ、文字を追っているだけで面白い。
展開も巧みで、ちょっと現実離れしたギミックにより、内面が変化していく様は「世にも奇妙な物語」のような不思議な魅力があった。

後半の「その周囲、五十八センチ」の主人公が抱えるコンプレックスは足の太さ。
ただひたすらストイックに脂肪吸引を繰り返す心境が淡々と、しかしおかしみを持って綴られる。
容姿による差別やステレオタイプな女性観をぼんやりと明るみにしつつ、露悪的にはならない塩梅が絶妙。
また表題作もだが、自らの身体が抱える人とは違った問題に対して、主人公の出す答えがとても素敵だ。
最後の一行で、愛おしさのこもる温かい眼差しが、頭の中で鮮明に浮かび、頬がゆるんだ。

テーマの重さをそのままに、軽妙なモノローグで描き切った、素晴らしい作品だった。

 

評価:8点

2024/3/29 読了

 

補足:カテゴリーとしては文学作品にあたりますが、大衆小説としても読めると判断したため、点数を付けました。