立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『伊豆の踊子』 川端康成

内容(amazonより引用)

旧制高校生の「私」は、一人で伊豆を旅していた。途中、旅芸人の一行を見かけ、美しい踊子から目が離せなくなる。大きな瞳を輝かせ、花のように笑う踊子。彼女と親しくなりたい。だが、「私」は声をかけられない……。そんなとき、偶然にも芸人たちから話しかけられ、「私」と踊子との忘れられない旅が始まった――。

若き日の屈託と瑞瑞しい恋を描いた表題作。ほかに「温泉宿」「抒情歌」「禽獣」を収録。

 

 

感想(ネタバレなし)

作家と読者というものには相性があり、良いものは文章を読んでいるだけで代え難い心地良さを覚える。
どうやら、僕にとって川端は相性が頗る良い作家みたいだ。
繊細な言葉の連なりが、スッと脳裏に沁み込み、美しい情景を描く。

有名な表題作でそれが強く感じられた。
若さ故の鬱屈した感情を抱える青年が、踊子と出会い、互いに惹かれ合う中で自分を受け入れられるようになる。
その瑞々しさと、爽やかな読後感が堪らなく好きだ。

そして何よりも凄まじいのが「抒情歌」。
今は亡き思い人に女性が語り掛ける形式で綴られるのは壮大な生死観と、一つの夢。
主人公が備えた超常的な力が”あなた”と結びつき、離れる様が儚い。
”天上や来世にて同じ姿でまた逢うことを否定し、二人が花として生まれ変わり、結ばれることを願う”、その想念が途方もなく美しい。
これは人が書いたものなどではなく、何かの悪戯で天から零れてきたのではないか。そんな突拍子もない妄想をしてしまうくらい、圧巻だった。

あと、「禽獣」と「抒情歌」に寓喩を見出す三島の解説も逸品で、「ここまで優れた作品と優れた読解力を持つ人間のやり取りは、もはやテレパシーと相違ないな」と思ったことも書き残しておこう。

 

評価:なし(文学作品のため)

2024/1/29 読了