立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『奇想と微笑』 太宰治

内容(光文社サイトより引用)

中学校の国語の時間。「走れメロス」の音読テープに耳をふさいだ森見少年は、その後、くっついたり離れたりを繰り返しながらも、太宰の世界に惹かれていった――。読者を楽しませることをなによりも大切に考えた太宰治の作品群から、「ヘンテコであること」「愉快であること」に主眼を置いて選んだ十九篇。「生誕百年」に贈る、最高にステキで面白い、太宰治の「傑作」選!

 

 

感想(ネタバレなし)

太宰の作品群から、森見登美彦が独自の軸で選ぶという、一風変わった短編集。

作風が幅広く、小説は勿論のこと、随筆から論評、『井伏鱒二選集』後記に至るまで、あらゆる形式でユーモアに富んだ文章を楽しめる。

小説で言うと、「猿面冠者」が好み。
小説を書くことに悩む青年を主人公に据えた入れ子構造になっているのが面白い。
デビュー作で傑作を出したと浮かれ、道行く人に顔が知られていると思い込んで挨拶をしまくり、結果鳴かず飛ばずの上紙面で手酷く貶され、怒りでカツレツを切り刻むところは森見イズムを感じて、めちゃくちゃ笑った。

「女の決闘」が傑作で、本邦では知名度の低いドイツの短編を妄想により何倍も膨らませる様が見事。
とにかく奇想とユーモアで読者を楽しませようとした人なのだという選者の評がしっくりくる。

そして掉尾を飾るあの「走れメロス」が、道徳を説く寓話から、へんてこで愛おしい物語へと捉え方が変わるのは、編集の妙というほかない。

良い意味で太宰のイメージが変わったし、他の作品も読みたいと思った。

 

評価:なし(文学作品のため)

2024/3/8 読了