立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『海も暮れきる』 吉村昭

内容(amazonより引用)

「咳をしてもひとり」「いれものがない 両手でうける」――自由律の作風で知られる漂泊の俳人・尾崎放哉は帝大を卒業し一流会社の要職にあったが、酒に溺れ職を辞し、美しい妻にも別れを告げ流浪の歳月を重ねた。最晩年、小豆島の土を踏んだ放哉が、ついに死を迎えるまでの激しく揺れる八ヵ月の日々を鮮烈に描く。

 

 

感想(ネタバレなし)

自由律俳句で名を馳せる、尾崎放哉の最晩年を克明に記した一作。
放哉の交友関係、実家との軋轢、頼った人から食べたものまで、とにかく事細かに描かれており、著者の綿密な取材ぶりが窺える。

そんな高い解像度により浮かび上がる尾崎放哉という人物は、はっきり言って屑である。
人に物を乞うことでしか生きていけないのに、元エリートの過去を捨てきれず、傲慢であり、すぐ人を疑う。
更に酷いのが酒癖で、酔うと人を罵り、誰彼構わず傷つける。
断酒を誓っても、その数日後には生活費を切り崩して酒を買ってしまうというダメっぷり。

もう救いようのない人なのだが、周囲の人たちは不思議なことに、彼を見放さない。
その理由は、放哉の人間味にあったのではないだろうか。
放哉は人に何度も無心をしながらも、その度情けないほどに感謝を示した。
寂しがりで、来客を待ちわび、何度も丘へ登って船から降りる人の顔に目を凝らした。
そんな彼は、みっともなくも、やはりどこか愛おしい。

放哉は、僧の身分でありながらも人であり続けたからこそ、あれだけ素晴らしい句を残せたのかもしれない。

 

評価:7点

2024/4/14 読了