立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『姑獲鳥の夏』 京極夏彦

内容(amazonより引用)

この世には不思議なことなど何もないのだよ――古本屋にして陰陽師(おんみょうじ)が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第1弾。東京・雑司ヶ谷(ぞうしがや)の医院に奇怪な噂が流れる。娘は20箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津(えのきづ)らの推理を超え噂は意外な結末へ。

 

 

感想(ネタバレなし)

誰もが知る傑作を今更読む。
京極先生の作品は過去に読んでいるのだが、時代小説の文体にどうも馴染めなかった。
しかし本作は現代の文体なので問題なく、寧ろ一癖も二癖もあるキャラクターから発せられる知識や物の捉え方が面白いのでテンポよく読めた。

あと兎にも角にも空気感が良い。
事件の端々から漂う猟奇の臭い。
視点人物である関口君自身の意識も所々曖昧である為、狂気の色も強く出ている。
彼の綾辻氏は本格ミステリの条件を”空気感”だと言っていたが、それに則れば本作より本ミスらしい小説はあるまい。

対する真相は大分無理があった。
特に密室トリックが「そりゃないよ~」と嘆きたくなる非現実的すぎるものでガッカリ。
ただ、タイトルにもなっている”姑獲鳥”の正体や呪いの描き方はかなり好み。
謎が、言葉と論理で、憑き物と共に明るみになり、落とされる。
圧倒的な筆力で紡がれる、異様で絢爛な世界に酔い痴れた。
熱狂的ファンを生むのも頷ける、魅力に溢れた作品でした。

 

評価:8点

2023/8/14 読了