立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『姫君を喰う話』 宇能鴻一郎

内容(amazonより引用)

東京大学大学院在学中に「鯨神」で芥川賞を受賞する。日本の古典に精通した教養と強靭な感性、きらめく文才で次々と作品を発表。のちに、膨大なポルノ小説を執筆、このジャンルの巨匠として一世を風靡した……。本書に収録したのは、谷崎潤一郎の世界にも通じる官能的感性と深い知性が、秀抜な文章によって融合した名編ばかりである。
煙と客が充満するモツ焼き屋で、隣の男が語り出した話とは……典雅きわまる戦慄の表題作。巨鯨と人間の命のやりとりを神話にまで高めた芥川賞受賞作「鯨神」、すらりとした小麦色の脚が意外な結末を呼ぶ「花魁小桜の足」、村に現れた女祈禱師が引き起こす異様な事件「西洋祈りの女」、倒錯の哀しみが詩情を湛える「ズロース挽歌」、石汁地蔵の奇怪な物語「リソペディオンの呪い」。宇能文学の精髄6編を選んだ。

 

 

感想(ネタバレなし)

中々に強気な宣伝文句がついているが、それに見合うだけの異形の短編集。

冒頭の表題作からアクセル全開。
牛を屠殺するシーンに始まり、各部位を(頼んでもないのに)事細かに解説しながら食べる描写が続き、十数ページでもう胸やけがしてくる。
その上、電車で読むことを憚られるくらい淫語が犇めき合うので、一体自分は何を読まされているのだろうと困惑せざるを得なかった。
だが、終わってみれば切ない悲恋の話になっているのだから驚きである。

他の作品も異質な空気と巧みなプロットを楽しめる良作揃い。
芥川賞受賞作である「鯨神」はエログロほぼ抜きで、漁師町に住む人々と鯨の戦いを、重厚な筆致で描いた傑作だし、「花魁小桜の足」もオチが落語のように綺麗で痛快だった。

キワモノ度で言えば「ズロース挽歌」が最高潮。
端から端まで偏執的なフェティシズムまみれで、それがどこかユーモラスなので笑えてしまう。
勿論、作中で行われることは、唾棄すべき犯罪である、とは一応言っておこう。

紛うことなきゲテモノだが、料理人の腕はピカ一。
貴方もお一口いかが?

 

評価:7点

2024/4/17 読了

 

補足:カテゴリーとしては文学作品にあたりますが、大衆小説としても読めると判断したため、点数を付けました。