立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『砂の女』 阿部公房

内容(amazonより引用)

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。

 

 

感想(ネタバレなし)

海外からの評価も高い名作と聞けば尻込みしそうになるが、蓋を開けてみたら案外エンタメ的で、楽しめた。

導入の数ページで主人公の末路を明かす手法が巧く、一体なぜそうなったのかという興味で物語を牽引してくれる。
対して主人公が件の村を訪れる目的は飽くまで昆虫採集であり、非常に理知的なモノローグが淡々と流される。
勿論それだけで面白く、このノリで穴に閉じ込められても哲学的な問答を主軸に進むのだろうな、と予想していたら普通にブチギレ出して笑った。そりゃそうか。

穴の中での生活は苦そのものだし、彼に落ち度は全くないので心の底から同情する。
なのだが、それはそれとして理不尽に対する不平不満のキレが良く、某北海道の天パタレントがやっていた番組のような味がある。

外の世界への帰還を求めた彼の行く末は、皮肉なようであり、他方では人の希望を映し出すようでもあって、印象深かった。

文学的な切り口で、特異な状況での奮闘記が楽しめる良い作品だった。

 

評価:7点

2024/1/21 読了

 

補足:カテゴリーとしては文学作品にあたりますが、大衆小説としても読めると判断したため、点数を付けました。