立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『羅生門 蜘蛛の糸 杜子春外十八篇 』 芥川龍之介

内容(amazonより引用)

この天才を越えた者がいただろうか? 近代知性の極に荒野を見た作家の珠玉作品集。
小説家の登龍門である「芥川賞」に、その名をとどめる芥川龍之介は、深刻な人生の悩みに耐えながら、機智と諧謔と博識を駆使し、みごとな短篇小説を書き残した。
平安時代、荒廃した都で途方に暮れていた下人は、若い女の遺体から髪を引き抜く老婆に怒りを燃やす……「羅生門」。
蜘蛛の糸につかまって自分だけ助かろうとした男のエゴイズムの果てを描く「蜘蛛の糸」。
贅沢と転落を繰り返し、人間に愛想をつかした若者が仙人になりたいと望んで……「杜子春」。
新鮮な抒情、傑出した虚構、そして明晰な文章で、今なお人々を魅了してやまない不世出の天才の代表的作品を、一冊に収めた21世紀への日本の遺産。

 

 

感想(ネタバレなし)

何の誇張もなく誰でも知っている文豪の傑作選。
あの有名な純文学賞の名前元でもある為、難解な作風を身構えたが、基本的に大体の話にオチがあるので、結構読み易かった。

それにしても各話の出来栄えが凄い。
題材も作風も幅広く、時にユーモラスで時にシリアス。そして最後には人の心にある暗さが、ありありと実体を持って現れる。
その人間観察眼の鋭さには感心するばかり。

インパクトが強かったのは「地獄変」で、人の業により地獄がこの世に顕現する物語に打ち震えた。これが文学か。

目当ての「舞踏会」は男女が鹿鳴館で踊る、それだけなのに美しくて儚い。
終わり方も実に洒落ていて、心地良い余韻に胸を満たされる。

恐らくほぼ時系列で並べられている故、掉尾を飾る「歯車」は芥川の遺作にあたる訳だが、これがまた陰々鬱々としていて、こちらの生気まで奪われそうになる。
私小説の形式なので収録作の名も幾つか作中で挙がり、連作短編集のような趣きになっているのが面白い。
それだけに、終わりの一行には戦慄した。
......言葉も出ねぇよ。

ともかく、名作の数々を味わえながらも、著者の想念や人生が一冊を通して伝わる構成になっていて素晴らしかった。
芥川入門には理想的だったのではなかろうか。

 

評価:なし(文学作品のため)

2023/12/20 読了