立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『たかが殺人じゃないか』 辻真先

内容(amazonより引用)

昭和24年、ミステリ作家を目指している風早勝利は、名古屋市内の新制高校3年生になった。学制改革による、たった1年だけの男女共学の高校生活。そんな中、勝利たち推理小説研究会は、映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ、中止となった修学旅行代わりの旅だった――。そこで巻き込まれた密室殺人。さらに夏休み最後の夜に、首切り殺人にも巻き込まれる! 二つの不可解な事件に遭遇した少年少女は果たして……。レジェンドが贈る、年末ミステリベスト3冠の傑作が、ついに文庫化。

 

 

感想(ネタバレなし)

88歳という高齢で上梓され、それがミステリランキングを席巻したと、バックグラウンドが凄まじい本作だが、色眼鏡抜きでも優れた作品だった。

まず、ミステリ作品以前に小説としての充実度が高い。
戦後間もない頃の空気感がありながらも、高校生である主人公たちの表情は豊かで瑞々しく、古臭さはない。
映画作りと三角関係と要素だけ抜き取ればコテコテの王道なのだが、キャラに入り込めるので全く気にならなかった。

では大事なミステリ面はどうかと言えばこちらも王道の密室とバラバラ死体。また性懲りもなくとも思うが。実際それでテンションが上がってしまうものだからしょうがない。
不可解な謎が奇想に基づく推理により解決される。これぞミステリといった切れ味で、本当に米寿を迎えた人類が書いたとは到底思えない。

極め付きは最後に明かされるとある趣向で、稚気に富んだと形容したくなるトリックにより、どこか爽やかな読後感を味わえた。

僕も御大の1/100でもいいから、若々しい感性を持った年の取り方をしたいネ。

 

評価:8点

2023/5/9 読了

 

補足:おそらく同作者、『深夜の博覧会』の続編(?)なのでそっちを先に読んだ方がいいと思う。