立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『檸檬』 梶井基次郎

内容(amazonより引用)

31歳という若さで夭折した著者の残した作品は、昭和文学史上の奇蹟として、声価いよいよ高い。その異常な美しさに魅惑され、買い求めた一顆のレモンを洋書店の書棚に残して立ち去る『檸檬』、人間の苦悩を見つめて凄絶な『冬の日』、生きものの不思議を象徴化する『愛撫』ほか『城のある町にて』『闇の絵巻』など、特異な感覚と内面凝視で青春の不安、焦燥を浄化する作品20編を収録。

 

 

感想(ネタバレなし)

普段、感情移入をして小説を読むことは少ない。
しかし、この作品群はどれも共感せざるを得なかった。

代表作「檸檬」の時点で、その言いようのない焦燥が、他人事でないと気づく。
好きだった詩や音楽が居た堪らなくなり、楽しめない。
そのもどかしさに覚えがありすぎて、「何故それを知っているのか?」と問いたくなる。

これだけじゃない。
さっきまで笑いものにしていた人のことを急に気の毒に思ったり、気遣ってくれる友人に皮肉を言ってしまったり、「街では自分は苦しい」と思ったり。
これは最早共感なんて生ぬるいものではなく、違う時代、違う場所にいる僕なのではないか?
そんな錯覚を起こすほどに、梶井基次郎の小説にはリアルな手触りの憂鬱が備わっているのだ。

その病んだ魂が、巧みな自然の描写により、癒されていく。
時に手の中の果実に、時に息を呑むほど美しい夕日に、時に澄んだ鈴の音に。
日常を生きる不安定な精神の中で、冷静な自省と自然への陶酔が、危ういところで均衡を保っている。
その浮き沈みを、際限なく丁寧に描いたからこそ、彼の作品はここまで胸に残るのだと思う。
良い読書体験でした。

 

評価:なし(文学作品のため)

2024/3/17 読了