立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『11文字の檻』 青崎有吾

内容(amazonより引用)

なんと、『体育館の殺人』の衝撃から10年!
平成のエラリー・クイーンは、短編もここまですごかった
本格ミステリ、SF、人気コミックのトリビュートまで、全8編
傑作「11文字の檻」(書き下ろし)収録

大事件に遭遇したカメラマンが感じた違和感を描く「加速していく」、全面ガラス張りの特異な屋敷での不可能殺人の顛末「噤ヶ森の硝子屋敷」、人気コミックのノベライズ「前髪は空を向いている」、どんでん返しの切れ味鋭い「your name」、百合小説として評判となった「恋澤姉妹」などに、力作書き下ろし「11文字の檻」を加えた全8編。『体育館の殺人』で衝撃のデビューから10年、著者の集大成ともいえるノンシリーズ短編集。

 

 

感想(ネタバレなし)

まえがきで著者自身が語る通り、良く言えばバラエティ豊富、悪く言えば統一感のないオムニバス短編集。

先頭を切る「加速してゆく」が兎に角素晴らしい。
題材は元より、それに立ち合う記者の視点が臨場感たっぷりに描かれる。
それだけで十二分に読み応えがあるのに、高校生の心情が裏に籠った繊細なミステリーへとフォーカスが移るのが凄まじい。
淡く美しい、余韻のある読後感。

後は「恋澤姉妹」も良かった。
某百合アンソロが初出で、勿論テーマもそれに則っている訳だが、それが何とも変化球で面白い。
殺し屋や姉妹の設定は半ばファンタジーであるものの、作品としての答えはこのジャンルを好む者への強烈なアンチテーゼにもなっているのが好きな点。身につまされます。

そしてトリをかざる表題作にかなり力が入っていて良かった。
ルールの中で地道に試行錯誤を重ねて、無理難題の答えに立ち向かっていく。これぞ人間賛歌(?)。
肝心のパスワード納得感のあるもので満足。

アタマとケツが超良かったから、間の掌編たちの不揃いさも許せる.......いや、流石に『わたモテ』のアンソロはいらなかったんじゃないかな。

 

評価:7点

2023/4/17 読了