立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『喜嶋先生の静かな世界』 森博嗣

内容(amazonより引用)

文字を読むことが不得意で、勉強が大嫌いだった僕。大学4年のとき卒論のために配属された喜嶋研究室での出会いが、僕のその後の人生を大きく変えていく。寝食を忘れるほど没頭した研究、初めての恋、珠玉の喜嶋語録の数々。学問の深遠さと研究の純粋さを描いて、読む者に深く静かな感動を呼ぶ自伝的小説。

 

 

感想(ネタバレなし)

某大学の助教授だった作者の、ほぼ体験談で構成された(であろう)小説。
同じ理系の大学生からすると、共感できる点とどうしようもなく羨ましい点が多々あった。

学部生の卒研はほぼ先生が主導だとか、研究室は歳が下の人から順に早く帰るとか、やっぱりあるあるなんだなぁと知り少し安心。

研究の魅力に憑りつかれた主人公は、どんどんプログラミング言語と計算式の山に埋もれ、没頭していく訳だが、専門用語を極力省きつつ、研究する事そのものの面白みを伝えることに成功していると思う。

作品の象徴とも言える喜嶋先生の人物造形もユニークだ。
一見無感情だが、実はとてつもなくピュアというのが面白い。
その極致である沢村さんとの恋模様の突飛さには笑った。
モデルの人物が実在するのかが気になる。こんな人いないやろとは思うが、いてほしいな。

揺るぎない好奇心を持って、彼らは研究に心酔する。
社会から切り離され、象牙の塔と揶揄される事すらあるその世界は、僕の目にはやはり、痛く美しいものとして映った。
澄み切った世界の静けさを、少しでも味わえたらと願う。

 

評価:8点

2024/1/5 読了