内容(amazonより引用)
樹木を愛でるは心の養い、何よりの財産。父露伴のそんな思いから著者は樹木を感じる大人へと成長した。その木の来し方、行く末に思いを馳せる著者の透徹した眼は、木々の存在の向こうに、人間の業や生死の淵源まで見通す。倒木に着床発芽するえぞ松の倒木更新、娘に買ってやらなかった鉢植えの藤、様相を一変させる縄紋杉の風格……。北は北海道、南は屋久島まで、生命の手触りを写す名随筆。
感想(ネタバレなし)
最近映画館で観て、感銘を受けた映画に本書が登場したので、読んでみた。
テーマを木に統一したエッセイで、各編でそれぞれの木にまつわる著者の体験が描かれる。
前情報で格式高い文章を想像していて、確かに硬くはあるのだが、読み易い。
幸田氏が木を見て、そこに何を感じるかという心の流れがとにかく丁寧であり、こちらまで心が安らいでくる。
木を人にあてはめる考え方が特徴的で、「ひのき」の材としては使い物にならない、どうしようもなくたちの悪い”アテ”を抱きながら同情に胸を痛める場面は、感情移入という言葉に収まりきらない、深い慈愛があった。
また、木を見る視点自体が面白く、枝はだけではなくて木の皮やこぶといった、普通の人が見逃してしまうような部分にまで思いを巡らせていて、新鮮だった。
いつも何気なく通る道に立つ木にも、きっと知らない魅力がある。
それに気がつくだけで普段の生活に少しだけ青々とした新緑が宿るようだ。
良いエッセイでした。
評価:8点
2024/6/19 読了