内容(amazonより引用)
たとえ癒しがたい哀しみを抱えていても、傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷の周りをそっとなぞること。過去の傷から逃れられないとしても、好奇の目からは隠し、それでも恥じずに、傷とともにその後を生きつづけること―。
ケアとは何か? エンパワメントとは何か?
バリ島の寺院で、ブエノスアイレスの郊外で、冬の金沢で。旅のなかで思索をめぐらせた、トラウマ研究の第一人者による深く沁みとおるエッセイ。
感想(ネタバレなし)
精神科の医師であり、トラウマの研究者である著者が、目に入る様々な事柄から、考えをおだやかに語るエッセイ。
人が日々を生きれば生きるほど、傷は増えていく。
その多種多様で、どれも痛々しい傷口に、学者の目による冷静な観察と、人の心によるあたたかな愛情で向き合っていくのが、なんとも言えず心地良い。
印象に残ったのは”ヴァルネラビリティ”についての考察。
弱さを捨てることなく、抱えたままでも生きていけるはずという祈りに、心の底から思いを重ねることができた。
また、女性についてのみでなく、男性のヴァルネラビリティについても触れられていて、少し肩の荷が下りる気分になった。
性別や肩書きに限らず、誰もがありのままで生きていけたらいいのにね。
最後の章では、ベトナム戦没者記念碑という、大勢の人の心に深い傷を残した出来事を刻んだモニュメントに相対する。
”傷がそこにある事を認め、受け入れ、傷の周りをそっとなぞること。”
いつでもページを開けるように、本棚のよく見える場所に置きたくなる、そんな多くの人にとっての大切なものになるような一冊だった。
評価:8点
2024/5/17 読了