内容(amazonより引用)
「大いにウソをつくべし】【弱い者をいじめるべし】【痴漢を歓迎すべし】…世の良識家たちの度胆を抜く不道徳のススメ。西鶴の『本朝二十不孝』にならい、著者一流のウィットと逆説的レトリックで展開。
感想(ネタバレなし)
文豪がその筆力を惜しげもなく屁理屈に費やす。これ程面白いものもそうそうあるまいよ。
当時の世相を逆張りした意見を一つにつき5ページ弱の文量で書き連ねるという内容なのだが、何しろ切れ味が鋭い。
便所の落書きみたいな下らない考えが、ユーモアと品の良さにより極上のエッセイに変貌する。
気付けば、奇を衒ったような不道徳な主張が、道徳的な結論を導いているのがなんとも可笑しい。
男女観などは流石に古さもあるが、そのほかに関してはほとんど時代を感じず、寧ろ新鮮さがあった。
特に「性的ノイローゼ」はポルノ広告が跋扈する現代の方が実感できる問題だろうし、「プラスチックの歯」は何気ない問いが人間の生そのものを捉えていて唸った。
それと、これが一番意外なのだが、思想の強さみたいなものがほぼなかった。
最後のページで気さくに読者へ語りかけ、「はい、おやすみなさい」と言い残すやさしげな人物像は、自衛隊の基地で割腹自殺をした現実と、全く一致しない。
何なら自殺に反対するような記述も見られる。
解説で評されるように、真面目すぎてしまったのかな。
もう少し著者のことを知るためにも、小説の方も読みたいと思う。
評価:9点
2023/12/15 読了