立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『勿忘草の咲く町で』 夏川草介

内容(amazonより引用)

生きることと死んでいることはどう違う?現役医師が描く高齢者医療のリアル

美琴は松本市郊外の梓川病院に勤めて3年目の看護師。風変わりな研修医・桂と、地域医療ならではの患者との関わりを通じて、悩みながらも進む毎日だ。口から物が食べられなくなったら寿命という常識を変えた「胃瘻」の登場、「できることは全部やってほしい」という患者の家族……老人医療とは何か、生きることと死んでいることの差は何か? 真摯に向き合う姿に涙必至、現役医師が描く高齢者医療のリアル! 解説・佐藤賢一

 

 

感想(ネタバレなし)

神様のカルテシリーズでお馴染みの作者による、また別の医療小説。

読む前は神様のカルテがあるのに態々舞台を変える必要があるのかと少し疑問だった。
が、読んでみて納得。
あのシリーズで扱うには、題材がやや重苦しすぎる。

高齢者医療。作中で言われる通りテレビや小説では蓋をされる、僕ら一般人が見ないような過酷な世界。
目を背けたくなる、あまりにもリアルな生と死を、現役医の圧倒的な筆力により、まざまざと見せつけられる。

提起される問題も一つ一つが重い。
胃瘻による延命の是非、医療従事者の責任、限りある医療資源。
それらを真っ向から捉え、人間的な強い優しさから答えを考えて、希望を見出してくれる。
そんな夏川草介のような人間がこの世のどこかで今を共に生きているという事実こそ、ある種の救いなのだと思う。
そして、僕でさえも懸命に生きたいと思わせてくれるのだ。

一部神様のカルテシリーズファンには嬉しい描写もあり、今後のコラボに期待してしまう。

 

評価:8点

2023/10/24 読了