内容(amazonより引用)
12世紀の中東。
聖者たちの伝記録編纂を志す詩人のファリードは、伝説の聖者の教派につらなるという男を訪ねる。
男が語ったのは、アリーのという若き行者の《物語》──姿を顕さぬ導師と四人の修行者だけが住まう《山》の、
閉ざされた穹盧(きゅうろ)の中で起きた連続殺人だった!
未だかつて誰も目にしたことのない鮮麗な本格世界を展開する、第17回メフィスト賞受賞作がついに文庫化。
感想(ネタバレなし)
”20年以上の時を経て、漸く文庫化された幻の作品”という肩書に違わぬ傑作だった。
舞台の根幹をなすイスラーム及びそれに連なる宗派の造詣がとにかく深い。専門用語が洪水のように流れでる。
ハッキリ言って、その用語の半分も理解できていない気がするが、本筋に必要な知識はしっかりと覚えられているから不思議である。
言葉を超えた概念を、言葉でしか伝えることができない。
修行者の矛盾を孕んだ禅問答は静謐で流麗であり、作者の圧倒的な筆力を感じさせる。
その洗礼された筆致と、ミステリ要素の組み合わせが意外なことによく合っていて、幻想的な空気感を壊さぬまま、ロジカルに殺人事件が解かれる。最後に判明する構図も、非現実的ながら伏線をしっかり張ってある為、ちゃんと本格ミステリとして成立しているのが素晴らしい。
類稀な作品であり、読める機会に恵まれて嬉しいばかりだ。
評価:9点
2023/7/12 読了