立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『君が夏を走らせる』 瀬尾まいこ

内容(amazonより引用)

ろくに高校に行かず、かといって夢中になれるものもなく日々をやり過ごしていた大田のもとに、ある日先輩から一本の電話が入った。聞けば一ヵ月ほど、一歳の娘鈴香の子守をしてくれないかという。断り切れず引き受けたが、泣き止まない、ごはんを食べない、小さな鈴香に振り回される金髪少年はやがて──。きっと忘れないよ、ありがとう。二度と戻らぬ記憶に温かい涙あふれるひと夏の奮闘記。

 

 

感想(ネタバレなし)

先輩から任された赤ちゃんを元不良が世話するだけで驚くようなドラマも特にない。
なのに、どうしてだろう?こんなにも心を動かされるのは。

本作は『あと少し、もう少し』の後日談的な立ち位置だが、『あと少し~』のストーリーをほぼ忘れていても大丈夫だった。
話のほぼ全てが高校生の大田と、一歳と九ヵ月の女の子鈴香ちゃんの2人のやりとりである。それを十二分に楽しく読めるのは、異常なまでの人間描写力の賜物だろう。
大田君はひたすらいいヤツだし、鈴香ちゃんはめちゃくちゃかわいい。
幼児特有の意味不明な発言にちくいちツッコむのがコント的で笑えるし、鈴香ちゃんのためを思って色々工夫していく姿は真剣そのもので、グッとくる。

そんな2人が作りだす空気があまりにも心地よくて、ずっと読んでいたくなる。
勿論そうはいかず、物語は”あと少し、もう少し”読み足りない所で幕を閉じる。
それでも彼らが走り出す姿を頭で思い描けるのだから、この作品は傑作なのだろう。

 

評価:9点

2023/8/17 読了