立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『ぼくのメジャースプーン』 辻村美月

内容(amazonより引用)

「書き終えるまで決めていたのはただ一つ、<逃げない>ということ。――私の自信作です」――辻村深月

ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。

 

 

感想(ネタバレなし)

重い.......。沈痛という言葉が似合う程に話が重い。

辻村美月は”救いを描く作家”だと思っているのだが、彼女の小説には時として、どうしようもなく救えない人間が登場する。
目的もなく、理由もなく、ただ誰かを傷つけることを楽しむ、姑息で残虐な人間。悲しいことに、現実でもそのような人間が起こす事件を目にする機会は少なくない。
この作品は、他者を傷つけることを厭わない人にどう対処するべきかを真っ向から思案している。

力を持った”ぼく”は先生との穏やかな交流の中で、犯人に与えるべき罪を悩み続ける。
大切なふみちゃんの心を傷つけられた復讐とその可否。
深慮を重ねるその姿勢は、きっと大人よりも、もっと真剣だ。

それだけに”ぼく”が犯人に課す罰は物悲しい。
しかし元々人を裁くことは、これ程までとは言わずとも、覚悟のいる行為なのだろう。
発言が容易となった今こそ、善悪を各々のメジャースプーンで測ることが大切なのだと思い知った。

 

評価:7点

2023/1/31 読了