立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『同姓同名』 下村敦史

内容(amazonより引用)

大山正紀はプロサッカー選手を目指す高校生。いつかスタジアムに自分の名が轟くのを夢見て
練習に励んでいた。そんな中、日本中が悲しみと怒りに駆られた女児惨殺事件の犯人が捕まった。
週刊誌が暴露した実名は「大山正紀」ーー。報道後、不幸にも殺人犯と同姓同名となってしまった
“名もなき"大山正紀たちの人生が狂い始める。
これは、一度でも自分の名前を検索したことのある、
名もなき私たちの物語です。

 

 

感想(ネタバレなし)

これは凄い!誰かしら考えはしただろうけど難しすぎて形にならなかった”同姓同名ミステリ”が、半端ない完成度の高さで実現されている。

本格ミステリファンは間違いなくアレを期待すると思うし、案の定仕掛けられまくっているのだが、趣向が趣向なので見抜くことはかなり難しい。
登場人物のほぼ全員を同じ名前にするという大きな制約を設けることで、ここまでトリックの自由度が広がるとは.......。
ミステリの持つ可能性に軽く感動を覚えた。

一方、この作品は本格としてだけでなく、現代社会を鋭く捉えた社会派ミステリとしても読むことができる。
SNS上で散見される行き過ぎた正義に誹謗中傷。理不尽な仕打ちを受ける無辜の”大山正紀”たちは、現代社会が作る闇そのものだろう。

骨の髄まで本格。だけど間違いなく社会派。
両者をこれ以上ない程見事に両立した、大傑作だった。

 

評価:9点

2023/2/4 読了