立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『地獄変・偸盗(新潮文庫)』 芥川龍之介

内容(amazonより引用)

“王朝もの"の第二集。
芸術と道徳の相剋・矛盾という芥川のもっとも切実な問題を、「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルに追及し、古今襴にも似た典雅な色彩と線、迫力ある筆で描いた「地獄変」は、芥川の一代表作である。
ほかに、羅生門に群がる盗賊の凄惨な世界に愛のさまざまな姿を浮彫りにした「偸盗」、斬新な構想で作者の懐疑的な人生観を語る「薮の中」など6編を収録する。

 

感想(ネタバレなし)

羅生門・鼻』に引き続き、芥川の初期の”王朝もの”が揃った短編集。

表題作の「偸盗」は、所謂ファムファタールもので、主人公の兄弟と、二人を魅了する沙金のそれぞれの思惑が重なる、ドラマチックな一編。
兄と弟の絶妙なすれ違いもあり、手に汗握るバトルシーンもあり、と見どころ満載なのだが、オチに違和感が......。
どうも作者本人も出来に納得していないらしく、”自分の一番の悪作”としているらしい。
何もそこまで言わんでも。

地獄変」を読むのは二度目で、初見ではその衝撃的な破局に目を奪われたが、今回は恐ろしいまでに見事な構成に気づかされる。
実に流麗な筆運びで、歴史の枠組みから絵師・吉秀という人物を浮かび上がらせ、最後には時の無常さを眼前にえぐり出す。
本当に溜め息しか出ないほどの傑作である。

「往生絵巻」は変化球で、演劇の台本のようにほとんどセリフのみで構成されている。
わずか8ページの中で、浄土を求めた男の業の深さと、味わい深いラストシーンを描き切っており、その凄さにただただ圧倒される。

やっぱ芥川って偉大なんだなぁ(今更)。

 

評価:なし(文学作品のため)

2025/3/10 読了