立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』 吉田篤弘

内容(amazonより引用)

路面電車が走る町に越して来た青年が出会う、愛すべき人々。いくつもの人生がとけあった「名前のないスープ」をめぐる、ささやかであたたかい物語。

 

 

感想(ネタバレなし)

どこかしら昭和の匂いがする街で、主人公が少しだけ変わった人々と静かな交流をする。
本当にそれだけで、目立ったドラマもさほどない。
にも関わらず、片時も退屈することなく読み切らせるのは、並大抵の作家にはできないことだ。
それは偏に、文章のセンスと、魅力的なキャラクターの賜物だと思う。

肩の力が抜けたやさしい筆致。
それにより、主人公がサンドイッチを食べれば、それがとてもおいしそうに見えるし、町を眺めればその光景が目に広がるように感じる。
街の人たちも、個性的だが変わり者すぎず、作り物めいていない素朴さを感じられて素敵だ。

中でもある女性と主人公との関係がまた味があって良い。
恋愛や友情や家族愛とも違う、言葉にしがたい関係の中に、人の根にあるような人間愛を感じた。

そう、それは気まぐれに作られたスープのように。
複雑でつかみどころがなく、でもとにかくおいしい!

心あたたまる、良い小説でした。

 

評価:7点

2025/3/1 読了