『みずうみ』 川端康成
内容(amazonより引用)
異常な教師と可憐な女生徒。
あやしくも美しすぎる川端文学の〝魔界〟
誰にも言っちゃ、だめだよ。ふたりだけの秘密……高校教師の桃井銀平は、教え子の久子と密かに愛し合うようになる。だが、二人の幸福は長く続かなかった――。
湖畔で暮らしていた初恋の従姉、蛍狩りに訪れた少女など、銀平が思いを寄せた女性たちの面影や情景が、中世の連歌のように連想されていく。
作家の中村真一郎が「戦後の日本小説の最も注目すべき見事な達成」と評した衝撃的問題作。
著者没後50年を迎え、角田光代さんによる新解説を増補。
感想(ネタバレなし)
川端の作品の中でも異色であり、問題作と呼ばれている、という前評を耳にし、身構えていたが、個人的には著者の作風からそれほどまで離れていないと感じた。
確かに、要素を抜き出してみれば、とんだ変態小説である。
主人公は、美しい女性の跡を付けてしまう性分を抱えており、物語はその対象である女性により展開される。
現代的な価値観で裁いてしまえば、彼はただのストーカーである。
だが、銀平の根底にあるのは、『雪国』で見られた”美への執着”であり、「伊豆の踊り子」にもあった”無垢への憧憬”ではなかろうか。
銀平は、かつての初恋の相手、弥生に囚われている。
彼の前を去った弥生への喪失感が引き金となり、心の空虚を永遠に埋め合わせようと、己の醜い足を心惹かれた女性の元へと運ばせているように、私には思えた。
それはまさしく”徒労”であり、哀れな夢想者のおぼつかぬ足取りにすぎないのだが、やはり妙に惹きつけられてしまうのだ。
フェティシズムの裏にある、哀愁を覗き見るような一作だった。
評価:なし(文学作品のため)
2024/1/26
