立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『円』 劉慈欣

内容(amazonより引用)

円周率の中に不老不死の秘密がある――10万桁まで円周率を求めよという秦の始皇帝の命を受け、荊軻(けいか)は300万の兵を借りて前代未聞の人列計算機を起動した! 第50回星雲賞に輝く「円」。麻薬密輸のために驚愕の秘密兵器を投入するデビュー短篇「鯨歌」。貧しい村で子どもたちの教育に人生を捧げてきた教師の“最後の授業"が信じられない結果をもたらす「郷村教師」。漢詩に魅せられた超高度な異星種属が、李白を超えるべく、あまりにも壮大なプロジェクトを立ち上げる「詩雲」。その他、もうひとつの五輪を描く「栄光と夢」、少女の夢が世界を変える「円円のシャボン玉」など、全13篇。中国SF界の至宝・劉慈欣の精髄を集める、日本初の短篇集。

 

 

感想(ネタバレなし)

『三体』で世界的に知られている作者の、オムニバス短編集。
とにかくアイデアが奇抜で、この一冊だけでもその卓越した才能が十二分に伝わった。

プロレタリアート文学としての趣きが強い「地火」は、中国の炭鉱の描写が厚い筆致で紡がれ、読み応えがある。
時代による科学の進歩を、功罪の両面から捉えるラストは、短編とは思えぬ余韻がある。

私的ベストは「詩雲」。
高次の存在が漢詩にはまり、李白になって詩を極めるために膨大な”雲を作る”という、あまりにとんちきなストーリーが面白い。
なんかいい感じに締めているけど、文明が一つ滅んでいるのがなんともSFらしい。

表題作の「円」も凄まじい。
秦の始皇帝の時代に人海戦術でコンピュータを実現するというありえねぇ話なんだけど、原理的にはSF要素はなく、実現できる範囲なのがすごい。
荊軻始皇帝を対比する幕切れも美しく、傑作の名をほしいままにしている。
これは売れますわ。

話題になりまくっている『三体』も傑作に違いないだろうから、いずれ読まねば。

 

評価:8点

2025/1/24