立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『ことり』 小川洋子

内容(amazonより引用)

人間の言葉は話せないけれど、
小鳥のさえずりをよく理解し、
こよなく愛する兄と、
兄の言葉を唯一わかる弟。
小鳥たちの声だけに耳を澄ます二人は、
世の片隅でつつしみ深く一生を生きた。
やさしく切ない、著者の会心作。

 

 

感想(ネタバレなし)

「小鳥の小父さん」の一生を幼少期から晩年に至るまで、静かな筆致で描いた一作。

著者の作品に触れる機会はまだ数度ほどだが、その登場人物の持つ異様なまでに純粋な執着は、おそらく全ての著作に共通したものではあるまいか。
本作の主人公である、「小鳥の小父さん」もその一人だ。

彼は、その生涯を小鳥に捧げた。
彼の兄が人間の言葉を失くし、代わりに小鳥たちと心を通わすための「ポーポー語」を選んだのに対し、彼は人の世界と小鳥の世界の狭間で彷徨いながら生きた。
幼稚園の鳥小屋を隅々まで掃除し、小鳥に関する書籍を片っ端から読みふける。
何かに憑りつかれたように、寡黙で、真剣に。

はっきり言ってしまえば、何が彼をそこまで駆り立てているのかは、正直分からない。
もしかしたら、彼自身も分かっていないのかもしれない。
それはきっと、心の奥底の言葉にならない美しい結晶のようなものが、彼を動かしているのではないか。
物語冒頭に飛び立つ小鳥を脳裏に浮かべると、そう思えるのだ。

 

評価:なし(文学作品のため)

2024/12/23 読了