立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『正体』 染井為人

内容(amazonより引用)

埼玉で二歳の子を含む一家三人を惨殺し、死刑判決を受けている少年死刑囚が脱獄した! 東京オリンピック施設の工事現場、スキー場の旅館の住み込みバイト、新興宗教の説教会、人手不足に喘ぐグループホーム……。様々な場所で潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ、必死に逃亡を続ける彼の目的は? その逃避行の日々とは? 映像化で話題沸騰の注目作!

 

 

感想(ネタバレなし)

脱獄した死刑囚の足跡を、五つの地を舞台に追う、長編サスペンス。
あらすじでこそ張りつめるような逃走劇を想像させるが、その中身の大半は主人公である鏑木が社会に溶け込む生活に描写が割かれ、派手な展開は終盤といくつかのシーンのみと言っていよい。
しかしながらそれを退屈せず面白く読ませてしまうところに、作者の力量を感じる。

どのパートもテイストが異なり、現場作業員や介護士など、それぞれの職のディティールが細かい。
その中でも好みだったのは、住み込みバイトの章で、ちょっとしたミステリとしても読めるのが良かった。
鏑木の真意が覗ける一幕は、その章の主人公の心情もあいまって、非常に印象深いシーンだった。

正直に言って真相は読者のほぼ全員が予想するであろう通りのものではあるが、それが作品の価値を落とすわけでは全くない。
確かな手腕で、魅力的な題材を手堅く仕上げた、良作だった。

尚、映画は良くも悪くも別モノなので注意。
僕は「ないわぁ......」となりました。

 

評価:7点

2024/11/29 読了