『李陵・山月記』 中島敦
内容(amazonより引用)
幼児よりの漢学の素養と、西欧文学への傾倒が結実した芸術性の高い作品群。 中国の古典に素材を仰いだ短編4作は、夭折した著者の代表作である。
人はいかなる時に、人を捨てて畜生に成り下がるのか。
中国の古典に想を得て、人間の心の深奥を描き出した「山月記」。母国に忠誠を誓う李陵、孤独な文人・司馬遷、不屈の行動人・蘇武、三者三様の苦難と運命を描く「李陵」など、三十三歳の若さでなくなるまで、わずか二編の中編と十数編の短編しか残さなかった著者の、短かった生を凝縮させたような緊張感がみなぎる名作四編を収める。用語、時代背景などについての詳細な注解および年譜を付す。
感想(ネタバレなし)
プレミアムカバーに惹かれて購入。
結果としてみれば、つられて良かった。
中国の古典作品を材に採っているため、語彙は極めて難解である一方、作品のテーマ自体は案外分かりやすいので、文学初心者でも楽しめた。
「山月記」は言わずもがなの知名度を誇り、ネットでも散々ネタにされているが、こうしてちゃんと読んでみれば名作以外に形容しようがないほど凄まじい。
詩人の夢を捨てきれないが、誰かに師事する勇気もなく、ただ自分の脆い才能を守ることのみに必死になる。
そんな人間味に溢れた李徴に共感を覚えずにはいられない。
獣と化した供を見送る鮮烈なラストシーンに至るまで。僅か10ページ余りしかないのだから驚異的である。
やっぱ上辺をネタにするだけじゃダメだわ。
「弟子」も凄い。
浅学故、孔子がどういう人なのか全く知らなかったが、戦乱の世で道徳を貫いた偉大さがよく分かった。
主人公である子路と孔子の複雑で深い愛のある関係がなんとも言えず良い。
長い蜜月の刻を歩んだ上での別れは、もはや言葉を失うほど哀しく、しかし美しい。
人間の豊かな想念を克明に描いた、不朽の傑作群だった。
評価:なし(文学作品のため)
2024/10/10 読了
