立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『まず牛を球とします。』 柞刈湯葉

内容(amazonより引用)

牛は食べたいが、動物は殺したくない。そんな人類の夢が実現した未来を描いた表題作ほか、大正電気女学生、石油玉、現代の箱男などが大活躍! 非人類にもおすすめの奇想天外な作品集。

 

 

感想(ネタバレなし)

タイトルから受ける印象そのままの、奇抜なアイデアを軸とした短編集。

表題作は、SFの個人的に苦手な要素を煮詰めたような話で、はっきり言って好きじゃなかった。
こういう固有名詞や設定ばかりを羅列してストーリーがほぼない作品はどう楽しめばいいのだろうか?

他も苦手な話が続き、これは相性が悪い作家かな、と思っていると、後半の作品になるにつれて面白くなってくるから不思議だ。
特に最後の二編が良かった。

「沈黙のリトルボーイ」は、”広島に落ちた原子力爆弾がもし不発だったら”という大胆なifを元にした意欲作。
爆弾解体の任務を背負い、アメリカが抱えた矛盾や、些細なミスが街一つを吹き飛ばしかねない状況に苦悩する主人公の心理がスリリングで読ませる。
その上あのオチを用意されてしまえば、手放しで褒めるほかない。

最後の一編は、”ウェルビーイング”と”遺伝子工学”というセンシティブなテーマを、ボーナストラックという概念に帰着させる手腕が見事。
「音楽はアルバムで聴くべき」という一言には、心の底から頷かざるを得ない。

合う合わないはあったが、数々の奇抜なアイデアを味わえた。

 

評価:6点

2024/9/30 読了