立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『砂嵐に星屑』 一穂ミチ

内容(amazonより引用)

舞台は大阪のテレビ局。腫れ物扱いの独身女性アナ、ぬるく絶望している非正規AD……。一見華やかな世界の裏側で、それぞれの世代にそれぞれの悩みがある。つらかったら頑張らなくてもいい。でも、つらくったって頑張ってみてもいい。人生は、自分のものなのだから。ままならない日々を優しく包み込み、前を向く勇気をくれる連作短編集。

 

 

感想(ネタバレなし)

『スモールワールズ』が人気を博し、今年は別の作品で直木賞を受賞した一穂ミチ
この方は何より、一言で語れない複雑な心象を写し出すことに長けている。
性別や立場の壁を越えて、各自の視点から等身大の悩みをここまでのリアルさを持って描ける作家には、中々お目にかかれないだろう。

本作の舞台はテレビ局だ。
ネットが爆発的に普及し、情報媒体としての役目を奪われかけているうえ、SNS上で槍玉に上げられるところを日常的に目にするテレビに、悪感情を抱く人も少なくないと思う。
事実この作品においても、斜陽産業の諦観じみた空気が常に漂っている。

ただ、それで終わらない。
「泥舟のモラトリアム」では、いわゆる中年の危機を迎えた主人公の目から、報道の責務と信念を明かしてくれる。
「資料室の幽霊」も、年が離れた二人の女性を通じて、”新たに始まること”と”これからも続くこと”に気づかせてくれる。
そして「眠れぬ夜のあなた」は、人が人を知る過程を丁寧に積み上げ、その尊さが込み上げるようなラストシーンを見せてくれる。

草臥れた日常に、「でも」「まだ」という希望を見つける魔法が、一穂ミチの小説にはかかっているのだ。

 

評価:7点

2024/9/18 読了

 

補足:ちな、サイン本です😁