立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』  斜線堂有紀

内容(amazonより引用)

最愛の人の死には三億円の価値がある――。壮絶で切ない最後の夏が始まる。

片田舎に暮らす少年・江都日向(えとひなた)は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。
そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子(つむらやこ)だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける。
相続の条件として提示されたチェッカーという古い盤上ゲームを通じ、二人の距離は徐々に縮まっていく。しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる──。
壁に描かれた52Hzの鯨、チェッカーに込めた祈り、互いに抱えていた秘密が解かれるそのとき、二人が選ぶ『正解』とは?

 

 

感想(ネタバレなし)

言ってしまえば世に数多ある”余命モノ”に、”死後体が金塊になる病”というSF的要素を組み合わせることで独自の切り口から愛の在り方を描いた意欲作。

中学生の少年が、サナトリウムで療養中のお姉さんとひょんなことから知り合い、打ち解けていくという本筋の時点でまぁ外れないだろう。
関係ないが、こういう年上のお姉さんよりも年上になってしまったなぁ(人生の悲哀)。

王道的な展開であれば、二人の関係は純粋なものになるところだが、この世界はそうはいかない。
彼女は、死後三億の値が付く人間だからだ。
それではどうしてもノイズが入り混じってしまう。
野卑な世間に振り回される中で懸命にもがき、自分の気持ちを証明しようとする主人公の葛藤は、真に迫っていた。

終盤には、驚愕とまではいかないものの、秀逸なサプライズもあり、作者の力量を感じさせる。
ラストシーンの何とも言えない爽やかさもよし。
短いながらに重厚なテーマを書き切った、良作でした。

 

評価:7点

2024/9/3 読了