内容(amazonより引用)
伊豆今井浜で実際に起った水死事故を下敷きに、苛酷な宿命とそれを克服した後にやってくる虚しさの意味を作品化した「真夏の死」をはじめ、文壇へのデビュー作ともいうべき「煙草」、レスビアニズム小説の先駆的な作品「春子」、戦後の少年少女の風俗に取材した作品等、短編小説の方法論と技術的実験に充ちた11編を、著者自身の解説を付して収める。
感想(ネタバレなし)
彼の有名な『金閣寺』が非常に難解だったので恐る恐る読みはじめたが、あの作品と比べると格段に読み易い。
ってか『金閣寺』が入門に不向きすぎた。
どの話も人が一様に持つであろう、言葉にできないような後ろめたさや、もどかしさが、豊富な語彙によりまざまざと暴かれる。
川端に評価されたという「煙草」は、世の中や学校を見下しつつも、上級生に煙草を吸わされた程度のことで、何か大罪を犯してしまったかのように落ち込む主人公に生真面目さに、共感を覚えずにいられなかった(※未成年喫煙もとい未成年飲酒はもちろん立派な犯罪です。どちらも二十歳になってからね☆)。
「翼」は短いながらも、文豪としての力量を見せつけられる、完璧な逸品。
”初恋の相手に翼が生えていると互いに信じ込む男女”という一見メルヘンなストーリーから現実的な寓話への変貌が見事。
ラスト一行は皮肉であり、心からの願いでもあるだろう。
表題作は文句なしの傑作。
大切な人を失った人間の心情を、ここまで冷酷に、かつ繊細に観察した作品もあるまい。
小説家としての三島は結構好きになれそうだという事が、この一冊で分かったのは収穫だ。
評価:なし(文学作品のため)
2024/7/29