立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『こぽこぽ、珈琲』 アンソロジー

内容(amazonより引用)

人気シリーズ「おいしい文藝」文庫化開始! 珠玉の珈琲エッセイ31篇を収録。珈琲を傍らに読む贅沢な時間。豊かな香りと珈琲を淹れる音まで感じられるひとときをお愉しみください。

 

 

感想(ネタバレなし)

珈琲。それは人々を一時どこかへと誘う、魅惑の飲み物である。
本書は、往古来今様々な文筆家たちがコーヒーへの特別な感情と、それに紐づけられたエピソードを綴ったエッセイを集めた、なんとも優雅な一冊だ。

集った面々は、どちらかと言えば昭和に名を残した方が多く、その肩書きも小説だけでなく、エッセイストや社会学者など、文学・学問に精通した文士ばかり。
しかしながら文章としてはそこまで堅くないのだ。
日々、各々の分野でペンを持ち、厳しく紙と相対している物書きたちが、ふと力を抜き、饒舌になるのは珈琲の魔力のしわざだろう。

その効力を鮮明に捉えた寺田寅彦氏の一篇が私のお気に入りだ。
珈琲は人に酩酊ではなく、冴えを与える。
人を人たらしめる至上の飲み物と称して差し支えないだろう。

カフェインにより動かされた手が記す文が、それと似た喜びを読者に齎すのは最早自明である。
珈琲への愛に溢れた、良いエッセイだった。

 

評価:6点

2024/7/27 読了