立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『生命式』 村田沙耶香

内容(amazonより引用)

夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで――死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作のほか、村田沙耶香自身がセレクトした、脳そのものを揺さぶる12篇。文学史上、最も危険な短編集!

 

 

感想(ネタバレなし)

村田沙耶香はヤバい」という噂はかねがね聞いていたが、実際ヤバかった。
衣食住のどれかが狂っている世界や人ばかり登場するので、読んでいるとこちらの倫理観まで侵食されるような悍ましさがある。

冒頭の表題作が一番ヤバい。
死人をみぞれ鍋の具にしてそれを生前の友人同僚でつついて時たま男女が「受精してきます」と席を立つ世界とか何食べたら思いつくんだよ。人肉か?
我々からするとイカれているが、作中人物からすると常識なので、いい話として終わるのが凄い。

その後も常人から外れた倫理観の話が続くが、”現実とは違う世界を生きる、読者寄りの人間の話”、から”読者と同じ現実世界を生きる、常人離れした倫理観を持つ人間の話”に段々とシフトしていくのが見事。
前者と後者の間に、本質的な違いは、実はない事を思い知らされるようだ。

最後の「孵化」では、いよいよ我々がその倫理観に完全に飲み込まれる。
多数の人格を使い分ける主人公はコメディタッチで描かれていて、実際めちゃ笑ったが、複数の顔を持っているのは誰しもそうだ。
つまるところ、我々は皆異常で、正しさは幻に過ぎない。

 

評価:なし(文学作品のため)

2024/7/5 読了