内容(amazonより引用)
あるパーティで出会った、冴えない男ストリックランド。ロンドンで、仕事、家庭と何不自由ない暮らしを送っていた彼がある日、忽然と行方をくらませたという。パリで再会した彼の口から真相を聞いたとき、私は耳を疑った。四十をすぎた男が、すべてを捨てて挑んだこととは――。ある天才画家の情熱の生涯を描き、正気と狂気が混在する人間の本質に迫る、歴史的大ベストセラーの新訳。
感想(ネタバレなし)
平凡なサラリーマンから全てを捨てて画家に転身した男の半生を描いた作品。
こういったドキュメンタリー的手法で世俗から離れた人物を追う形式の物語は、キャラクターの魅力が肝要だと思う。
その点で『月と六ペンス』は無類だ。
芸術に突如として取り憑かれたストリックランドの傍若無人な生き方が痛快で、ただその言葉や行動を追っているだけでも面白くなってしまう。
ストリックランドだけでなく、彼の周りを取り巻く人物たちも個性的で印象に残る。
中でも好きなのが同じ画家のストローヴェで、彼の情けなさ混じりの優しさや、才能に対する公正な目に、ストリックランドとの対比もあって、強い人間味を感じた。
後半は舞台をタヒチに変えると同時に、空気も穏やかになるのだが、狂気と紙一重の信念を貫き通した壮絶なラストシーンは圧巻である。
男女観の押しつけがかなりキツくはあるものの、百年前に書かれたとは思えないほど、今読んでも楽しめる一作だった。
評価:8点
2024/6/23 読了
補足:カテゴリーとしては文学作品にあたりますが、大衆小説としても読めると判断したため、点数を付けました。