立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『鎌倉うずまき案内所』 青山美智子

内容(amazonより引用)

古ぼけた時計屋の地下にある「鎌倉うずまき案内所」。
旋階段を下りた先には、双子のおじいさんとなぜかアンモナイトが待っていて……。

「はぐれましたか」

会社を辞めたい20代男子。ユーチューバーを目指す息子を改心させたい母親。
結婚に悩む女性司書。クラスで孤立したくない中学生。
いつしか40歳を過ぎてしまった売れない劇団の脚本家。ひっそりと暮らす古書店の店主。
平成時代を6年ごとにさかのぼりながら、6人の悩める人びとが「気づくこと」でやさしく強くなっていく――。

うずまきが巻き起こす、ほんの少しの奇跡の物語。

 

 

感想(ネタバレなし)

最近書店でよく見かける著者の作品。
気になったので買ってみた。

まず受ける印象として、抜群に小説が上手い。
各話を通して、平成という時代を遡る構成は言うまでもなく、ハニカミ王子やポケベルといった言葉を出すことにより、当時の空気感が一気に再現されて見事。

一つ一つの話も完成度が高い。
目立つようなドラマはないものの、それぞれの主人公が持つ悩みが非常に等身大のもので、共感できる。
他者からしては深刻ではないが、当人にとっては切実な迷いが、老紳士二人とアンモナイト一匹というよく分からない面子の助言により、軽やかに救われるのが何とも言えず、素敵である。

一番良かったのは「花丸の巻」。
40歳でまだ芽吹かぬ脚本家という人物像が好みだった。
創作に強い熱意を持って挑む人に憧れるんだよなぁ。

締めくくりの「ソフトクリームの巻」も、誤ったまま進んでしまう人生をおだやかに肯定するような懐深さがあって好き。

最後まで読むことで、いろんな人物の巡りあいを辿りきった満足感もあった。
これだけ読まれているのも納得の良作でした。

 

評価:7点

2024/5/10 読了