立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『今はもうない』 森博嗣

内容(amazonより引用)

嵐の山荘で起きた2つの密室殺人事件!
隣り合った部屋で死んだ美人姉妹。40歳の私は、西之園嬢と推理する。

避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で1人ずつ死体となって発見された。2つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が……。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ

 

 

感想(ネタバレなし)

シリーズの中で評価が高いのも頷ける傑作。

事件は、このシリーズにしては珍しくシンプルだ。
嵐の山荘で起きる密室殺人。変わった点といえば、事件現場である二つの部屋が繋がっているくらいで、言ってしまえば地味である。

加えて恋愛要素がいつにもましてキツイ。
普段はあれだけ静謐で理知的な文章を書くのに、恋愛が絡むとどっちかがベタ惚れするだけのチープなメロドラマになってしまうのは何故なのか?
多分、森博嗣が恋愛に興味ないからだろう。

そんな鬱陶しいロマンス要素が、実に全体の1/3を占めているが、残りのミステリ部分は冴えていた。
各人により、いくつも推理がなされるのが面白いし、それが新たな事実の発見により早々に崩れるのも小気味よい。
そして、意識の外から襲うトリックが凄まじく、ミステリとして紛れもなく秀逸である。

あと、今回は森節もいつにもまして絶好調だった。
解決からラストシーンに至るまでが鮮やかで、最後の一行もこれ以上ないほど清澄。惚れ惚れしてしまう。
いいアイデアを思い付いたから筆が乗ったんだろうな。

 

評価:7点

2024/5/3 読了