立ち向かう振りの妄想癖

読んだ本の感想を雑に放ります(ミステリ多め)。超不定期更新です。

『青空と逃げる』 辻村美月

内容(amazonより引用)

深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。押し寄せる悪意と興味本位の追及に日常を奪われた母と息子は、東京から逃げることを決めた――。

辻村深月が贈る、一家の再生の物語。読売新聞好評連載、待望の単行本化。

 

 

感想(ネタバレなし)

母子が日本各地を転々とする、ただそれだけ。
一部ミステリ作家らしい仕掛けや展開も見られるが、主題は常に父が居なくなった母と子の逃避行からブレない。

そしてその本筋自体も、特に大きな起伏はない。
行く先々で出会う人々との、穏やかな交流。それだけをずっと心地よく読み進められてしまうから、この人は凄いのだ。

観光地を巡る旅小説としても読み応えがある。
別府の砂場が中でも事細かで、砂かけさんへの強いリスペクトが感じられた。
一回体験してみたいな~、砂むし温泉。

長く、不安定で行く宛てもない旅を通し、母と子は一度壊れかけた家族という関係性を修復していく。
その丁寧な筆遣いに、辻村美月の心からの祈りが感じられる。
二人が幸せでいられますように。

ラストシーンの鮮やかな青空は、今後なにがあったとしても、より強く結びついた家族は壊れないだろうという確信を抱かせてくれる。
きっと現実の僕らもそうだろう、とも。

『傲慢と善良』とのリンクがあるので、併せて読むとちょっとお得かも。

 

評価:7点

2024/4/23 読了